25.友情

解放軍に訪れたひとときの平和の中、今日も元気にアレスとナンナの邪魔をするリーフの声が響いていた。
「ナンナ〜、一緒に買い物でも行かない?」
「あ、いえ、これからアレスと剣の稽古がありますので…。」
「じゃ、私も一緒にやる。」
そう言って強引について来ては、ナンナの休憩中になかなか良い練習相手になるリーフに、最近はアレスも昔ほど迷惑そうな顔はしなくなっていた。こうして剣を交えているおかげで、実戦時には動きが上手く噛み合うことも少なくはない。
「いいな〜。」
ナンナ達と一緒に裏庭へと向かうリーフを見ながら、セリスは溜め息をついた。
「どうかなさいましたか?」
傍に居たオイフェが声をかけたが、セリスはリーフの姿を見送ったまま再び大きく溜め息をつくばかりだった。
「セリス様…?」
オイフェがもう一度声をかけると、セリスはやっと窓から離れて席に戻り、コーヒーを啜りながら言った。
「最近、リーフとアレスって仲良いよね?」
「そうですね。喧嘩は絶えませんが、なかなか微笑ましく…。」
言いかけて、オイフェはセリスが不満そうな顔をしていることに気付いた。
「あの2人、セティとも仲良いよね?」
「ええ、まぁ…。」
何やら不穏な空気を感じて、オイフェは言葉を濁した。すると、セリスは拳を握りしめて叫ぶ。
「ずるいっ!!」
「は?」
「父上とあの2人の父上は親友だったって聞いてるのに…。私をはぶけにしてセティとトリオ組むなんてっ!!」
「セリス様…。それはずるいとか言う類いのものではないかと…。」
「だって、リーフとは親友になれると思ってたのに〜。」
初めてあった時には、父上達のように仲良くやって行きましょう、という雰囲気になっていたものの結局彼は未だにセリスのことを「様」付きで呼んでいる。
「リーフ様は充分セリス様に懐いて…あっ、いえ、セリス様のことをお慕いしているものと思われますよ。」
「慕われるんじゃ嫌だ。それに、アレスだって誤解が解けたら上手くやってけると思ってたのに〜。」
この軍でセリスを呼び捨てにしているのはシャナンとアレスだけだった。他の者は敬意をはらってくれるばかりだ。そしてシャナンは歳が離れてるし負い目があるため、懐深く踏み込んで来ようとはしなかった。唯一、セリスに対して欠片ほどの敬意も持ち合わせていないアレスは、対等に付き合うのにもってこいの相手だったかも知れない。実際、この軍でセリスを小突けるのはアレスだけだ。しかし、だからと言って親しくなれるかと言うと、これは別問題である。
「それは、セリス様の行いが…。」
「何? 私が何したって言うのさ?」
「少々悪ふざけが過ぎたのではないでしょうか。」
誤解してた頃の所業をあげつらったり、ナンナのことでからかったり嫌がらせしたり。おかげでアレスはセリスを苦手としていた。平時にはまるで天敵でも見つけたかのように遠くから姿を見るなり踵を返す。
「だって、アレスってからかい甲斐があるんだもん。」
「そういうことは、充分に気心が知れてからおやり下さい。」
「だって、だって、盟主なんてやってるとストレス溜まるんだよ〜!」
「だからって……やり過ぎです。」
オイフェは呆れた顔をした。
「わ〜ん、私も親友が欲しいよ〜っ!!」
「何も、泣かなくても…。」
いきなり駄々っ子のようになってしまったセリスに、オイフェは困った顔をするばかりだった。

「……という次第らしいです。」
剣の稽古を終えてフィンの煎れたお茶でささやかなお茶会をしていたアレス達は、フィンがオイフェから聞いた話に目を丸くした。
オイフェに相談をもちかけられた時は、フィンも困惑したのだ。
「シグルド軍の知恵袋と言われたあなたにもどうしていいか解らないことが、私に解るはずがないでしょう?」
そう冷たくあしらってしまったが、とりあえずアレスやリーフがセリスをどう思ってるのか本音を聞いたことはなかったので、フィンはひとまず話だけでも耳に入れておくことにしたのだった。
「セリス様も、いろいろ煮詰まってますねぇ。」
「俺については自業自得だ。」
「そんなこと言わずに、お友達になってあげたら?」
ナンナは苦笑したが、アレスは絶対に嫌だと言わんばかりにそっぽを向いた。
「拗ねないでよ…。」
ナンナは困ったような呆れたような顔をする。
「でも、アレスとリーフ様とセティ様でトリオを結成してたなんて知らなかったわ。」
そんなこと、ここに居る誰も知らなかった。確かにアレスとリーフはそれぞれセティと仲が良いが、3人揃って何かしていた覚えなどない。
「そもそも、アレスとリーフ様の関係って親友と言えるのかしら?」
「「親友なんかじゃない!」」
喧嘩友達となら言えるかも知れないけどと思いながらナンナが呟くと、アレスとリーフは声を揃えて叫んだ。その呼吸はピッタリと合っている。そんな様子に苦笑しながらフィンはそっと言い添えた。
「お二人の御意見はともかく、端から見てると仲良く喧嘩してるように見えるんだそうです。」
ナンナは二人の喧嘩の様子を思い浮かべて、納得したような表情を浮かべた。普段は相手を小馬鹿にした様子で禄に口もきかないアレスが、ナンナのことでリーフとやり合ってる時だけムキになってる姿は、端から見れば互いを懐深く受け入れているように見えても無理はない。
「そんなぁ…。」
「冗談じゃないぞ。」
リーフとアレスはショックを受けたようだった。それを見て、ナンナは聞こえよがしに呟く。
「私は、仲良くしてくれた方が嬉しいんだけど…。」
「「……努力する!」」
間合いまでピッタリのアレスとリーフに、フィンとナンナは苦笑した。この二人がいつか本当に親友と言えるようになれるかは解らないが、悪友くらいにはなれるだろうと父娘揃って考えていた。
「努力ついでに……セリス様を呼び捨てにされてみては如何ですか?」
「そりゃ面白い。セリスの奴、小躍りして喜んだりしてな。」
ナンナがリーフを唆すと、アレスは笑いながら賛成した。
「ん〜、やってみようかな。」
これで「セリス様が小躍りするトコ見てみたいし…」などと考える辺りは、やはりリーフはアレスと気が合ってると言えるのではないだろうか。

-了-

《あとがき》

友情にも片想いはあり? というお話でございます。
結局、仲が良いのか悪いのかよく解らないけど気が合ってるのが、うちのアレスとリーフ様の関係です。ナンナを媒介にして、お互いをかなり理解しています。多分、親友の範囲の内周辺りには引っ掛かってることでしょう。互いに下手な遠慮なんてしないしね(苦笑)
タメ口きいて一緒にバカやって騒げる間柄を親友と言うなら、セリス様は立場が災いして親友が出来ません。少ないチャンスも性格が災いして自らそれを潰す始末(^^;)
父親同士が親友だったからって、息子同士も親友にならなきゃいけないなんてことはないと思うのです。でも、きっと、アレスは悪友くらいにはなってくれることでしょう。そして、リーフ様はいつか親友モードに入ってくれると思います。
それにしても……父親が英雄視されてると苦労するわね、セリス様(^_^;)

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