対決!!

シアルフィ家からの招待状を受け取って、エルトシャンやキュアン達が家族総出でのこのことやってくると、そこには1本の綱が置かれていた。
「兄上。これは一体どういうことなんですか?」
つかつかと寄って来て問いつめるようにするエスリンに、シグルドは笑いながらなだめるように顔の前で手を振った。
「『綱引き』って知ってるかい?」
エスリンの質問には直に答えず、シグルドは皆に向って言った。
「2つのチームに分かれて、この綱を引き合う競技なんだ。」
「まさか、それを俺達にやらせるために呼んだ訳じゃないだろうな?」
シグルドが言葉を切ったところで、エルトシャンが睨み付けるようにして問いかけた。子供達も、まさかと思いながらざわついている。
「いくらシグルドでも、そこまでは…。」
「ピンポ〜ン♪」
キュアンのフォローが入りかけたところで、シグルドはのほほんと笑いながら人さし指を立てた。
「ちょうど巷は運動会シーズンってものらしいんだよね。そしたらセリスが、面白そうだから皆でやったら如何でしょうか、って勧めてくれたんだ。」
セリスの発案と聞いて、一同は妙に納得してしまったのだった。

集まった面々は腰の武器を外し、改めてシグルド達の元へ集結した。
「それじゃ、親達は私のチームで、子供達はセリスのチームに分かれてね。」
「親子対決か?」
エルトシャンは、それでは体重差がかなりあるのではないかと言いたげな視線をシグルドに送った。ただ綱を引き合う競技である以上、相手が重い方が不利である。親子で分かれては、子供達の方が遥かに体重が軽い。
「あら、兄様。メンバーが分かりやすくてよろしいではありませんか。」
「それに、私達が勝てば親の貫禄ってやつを見せつけられるしな。」
ラケシスとキュアンに言われて、エルトシャンは「そんなものなのか?」とあっさり引き下がった。
「私達が勝ったらね、セリスがグランベルの最高級ワインを振る舞ってくれることになってるんだ。」
その言葉に、エルトシャンとキュアンとラケシスの目の色が変わった。
一方、子供達の方ではセリスが皆にこっそり耳打ちして回っていた。
「父上達に勝ったあかつきには、御褒美に秘蔵のワインを1本貰える約束なんだ。」
親達の目が厳しくて気軽に酒を飲めないアレスやリーフはゴクリと喉を鳴らした。
「確かに向こうは体重もパワーもあるけどさ、でもそれだけじゃ勝てないってこと教えてやろうよ。こっちは一緒に長く戦った仲だもの。チームワークは私達の方が絶対勝ってるよ。」
「チームワーク云々はさておき、父上に一矢報いるチャンスだよな。」
「面白そうですね。」
アレス達は益々乗り気になった。
こうしてメンバーの激励が終わったところで、両チームのメンバーが位置についた。
親チームは前方からシグルド、エスリン、キュアン、エルトシャン、フィン。チアガールにラケシス。
「エスリンをチアガールにした方がいいんじゃないか?」
「ダメだよ。エスリンの応援じゃ、私と君にしか効果無いもの。」
ラケシスの応援で全体を盛り上げ、並び順により兄妹支援効果と恋人支援効果をダブル使用の上、迫り来るエルトシャンから逃げるフィンで、親チームは勝ちを狙っていった。
そして子チームは前方からセリス、アレス、デルムッド、リーフ、アルテナ。チアガールにナンナ。
最も非力なナンナを選手から外すと同時に彼女の応援で全体を盛り上げ、セリスの魔の手から逃げようとするアレスと、アレスの八つ当たりから逃れようとするデルムッド、そしてリーフの後ろには吸引力を発揮するアルテナをおいて姉弟支援効果を狙う作戦だった。
「それでは皆様、位置について下さい。」
審判役のディアドラが綱の中央の印付近に立って声をかけると、両チームは綱の横に並んだ。
「よーい……始め。」
ディアドラの合図で、親子は一斉に綱を引き始めた。
「頑張って〜♪」
「皆様、しっかり〜♪」
ラケシスとナンナの応援する声が響き、力任せに引きやる親達と呼吸を合わせて引きやる子供達の間で、印は左右に揺れ動いた。体重差であっさり勝負が決まるかと思いきや、子供達側のステータスとチームワークの良さはかなり効いているらしい。
そして、この試合は突如あっけない結末を迎えた。
「アレス〜、もうちょっとよ〜♪」
「フィン〜、あと一息ですわ〜♪」
この声援に子供達の方では、アレスが更に気合いを入れ、負けてなるかとリーフが死にものぐるいで綱を引っ張った。しかし親達の方は、フィンが慌てふためき、エルトシャンが呆然となってしまったのだ。
一気に綱は子供達の方へ引かれ、勝負がついた。
「あ〜あ、秘蔵のワインが…。」
「だから、エスリンをチアガールにした方がいい、って言ったんだ。」
「あら、私の所為になさいますの?」
ぼやくシグルドとキュアンに、ラケシスが不満そうに詰め寄った。そりゃ、自分の声援の掛け方が悪かったのかも知れないが、この体格差で互角だったのは自分の所為じゃない、と言いたげだ。
「いえいえ。マスターナイトLV30の君より、パラディンLV30のエスリンの方が遥かに非力だというだけですよ。」
砂を払いながら答えるキュアンに、シグルドは「そういうことは先に言ってくれ!!」と叫んだが、所詮は後のまつりである。
そんなシグルドに対して、セリスは「指揮レベルの差が出ましたね、父上♪」とにこやかに笑いながら秘蔵のワインを要求したのだった。

-了-

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