グランベル学園都市物語

第43話

文化会館に着いた2人は、昼食を後まわしにしてプラネタリウムに入った。
「星空のロマンス」とタイトルの付いたプログラムは、ロマンチックな神話と共に様々な星座を紹介するものだった。春の星座を紹介する「春の星空」というプログラムと交互に上演されていたが、2人が着くとすぐに「星空のロマンス」が上演されることになっていたので、先に見ようということになったのだ。
上演の前半、セティに耳にはティニーの感嘆の溜息が聞こえて来た。それを聞きながら、プラネタリウムに来て正解だったかなと思って喜んでいたが、いつの間にか自分も夢中になっていた。心地よい語り口を聞きながら星空を眺め、気がつくと上演が終わっていた。
「たくさんのお星様と素敵なお話にうっとりしてしまいました。」
「そうだね。何だか星空に吸い込まれるような感じがしたよ。」
「まぁ、セティ様もですか?」
「ティニーも、そんな気がしたのかい?」
2人で似たような感覚を味わったことが嬉しくて、いつの間にか自然にティニーはセティの腕に手をまわしていた。それがセティには更に嬉しかった。
そのまま2人は文化会館のレストランに行き、かなり遅めの昼食をとることにした。
「何にしようかしら?」
メニューを見ながらティニーはあれこれ目移りしていたが、ふと目をとめた。
「このオムライスグラタンって美味しそうです〜。」
「どれどれ…ああ、本当だ。これにしようかな?」
「わたしも、これにします。」
2人はオムライスグラタンのドリンクセットを頼んだ。
先に運ばれて来たアイスティーを飲みながら料理を待っている間に、セティは当初の目的を果たすことにした。
「はいっ、ホワイトデーのプレゼント。」
セティは小さめの箱を取り出し、ティニーに渡した。
箱を開けてみると、中から出て来たのは可愛いポケベルだった。
「これがあれば、直接ティニーに連絡がとれるからね。」
イシュタルを当てに出来なくなる以上、セティがティニーに直に連絡をとるにはこういうものを渡しておくにこしたことはない。だが、携帯電話ではティニーの都合に合わせるのが難しく、目の前にアーサーがいる時に電話を掛けてしまう可能性を否定できない。
セティが渡したポケベルは音を鳴らさないようにも出来るし、メッセージを複数記憶させておくこともできるので、ティニーが後でこっそりメッセージを受けとることができる。待ち合わせたい時間と場所を連絡するだけでなく、ちょっとしたメッセージを送ることも可能だ。
「私も同じものを持ってるんだ。」
セティは色違いのポケベルを取り出して見せ、番号を書いた紙をティニーに渡した。
ティニーの方でもこれまでセティに連絡をつけるのは難しかった。セティのように障害があったわけではないが、シレジア家に電話をかけると絶対にセティが直接出ることはないとわかっているので掛け難かったのだ。
以前、イシュタルから専用電話番号を教えてもらう前、フリージ家に電話をかける度に「イシュタル姉様の従妹のティニーと申しますけど、イシュタル姉様に取次いでいただけますか?」と言わなくてはならなかった。普通に「ティニーですけど」と言うだけではダメで、相手との関係を明らかにして名乗らないと取次いでもらえなかったのだ。
これをシレジア家に掛けた場合に置き換えて考えると「セティ様の恋人の…」になってしまう。堂々とそんな名乗りを上げることなど、ティニーには出来なかった。尤もそれは杞憂で、シレジア家の使用人は全員ティニーの事を知っているし声も大体覚えているから、普通に「ティニーと申しますけど」と言った時点でセティに取次いでもらえるのだけど、ティニーとしては上流家庭へ電話をかける時はああ名乗らなくてはダメなんだろうと思っているので掛けることが出来なかったのである。
それに、1度だけアーサーがシレジア家に電話を掛けてる現場に居合わせたが、フィーとの関係を根掘り葉掘り聞かれてたみたいだった。だからやっぱり掛けにくかった。たまたま、電話の前を通りかかったレヴィンがふざけて出てしまった時の電話現場に居合わせてしまったのが、ティニーからの電話の一番の妨げとなったのかも知れない。
「これで、これからは今までより連絡がとり易くなるよ。」
「はい♪」
ティニーは大切そうにポケベルとメモをしまった。
そんなことをしながらお喋りをしていると、オムライスグラタンが運ばれて来た。
「思ってたより量がありそうです〜。」
「無理することはないけど、ゆっくりしっかり食べようね。随分遅いお昼だからお腹も空いてて、普段より食べられてしまうかも知れないよ。」
「はい。」
それからしばらくの間、2人は黙ってホワイトソースに浸ったオムライスと格闘したのだった。

前へ

次へ

インデックスへ戻る