あ はっぴぃ にゅう いやぁ

~コンテスト~

出場者が支度を終えて戻ってくると、早速コンテストが始まった。
彼等が身支度をしている間に、セリスは玉座の近くに審査員席を作り、そこにはオイフェ、ヨハルヴァ、コープルの3人が座って居た。
そして、出場者はそれぞれ他の者との間を衝立てで仕切られて審査員から遠い方の袖に待機させられた。
「ルールは簡単だよ。呼ばれたらそっちから出て来て観客と審査員にアピールして向こうの袖で再び待機するだけ。それで、審査員の3人が評価を付けて、最終的に一番高い評価を得られた人が優勝だよ。」
実に簡単な説明をして、セリスは早速アーサーを呼び出した。
「元気よくアピールするのよ。」
「わかってるって♪」
アーサーは、玉座の前へ飛び出して行った。
ミニのセーラー服を纏って、三つ折りソックスとローファーを履き、ポニーテールに大きな赤いリボンを着けたアーサーは元気よく中央まで出て行くと、スカートを翻してクルクルと回ってポーズを決め、観客と審査員にウインクした。
「ほほ~、元気があって良いですなぁ。」
「はぁ、随分とノリがよろしいようで…。」
感心するハンニバルに同意を求められて、フィンは曖昧に返答した。

「は~い、次はレスター!」
てっきり自分は最後だと思っていたレスターは心の準備がまだ出来ていなかった。
「50音順だと思ったら大間違いだからね。次はレスターだよ~!」
聞き間違いではなくセリスはレスターを呼んでいた。
「レスター、頑張ってね。」
「うん。出来るだけの事はしてくるよ。」
急いで息を整えて、レスターは玉座前へ出て行った。
青いメイド服に身を包み、編み上げブーツを履いて、降ろした前髪を左右に柔らかく振り分けてレースのカチューシャを付けて、レスターは観客と審査員とセリスに向ってお辞儀した。
「これは意外だったなぁ。」
セリスの呟きを聞きながら、レスターは反対側の袖へ消えて行った。

「次は、デルムッド~!」
一体どういう順番なのか首を捻りながら、デルムッドはせめてリーンの努力を無駄にしないようにと覚悟を決めて出て行った。
とにかく、なるべく小股に歩いて、でも早く袖まで行きたいと急ぎ足でデルムッドは中央まで歩いて行った。
赤のハイネックのドレスを纏い、肩までのカツラを着けて、帽子から垂れるベールにも似た大きなリボンで顔を隠しがちにしながら中央まで歩み出て、デルムッドはそっと顔を上げるとまた静々と袖へ消えて行った。
「……フィン殿。」
「何も仰らないで下さい。」
フィンは、深く深く溜息をついた。

「次は、ファバルよろしく~!」
何となく予感がしていたファバルは、すんなりと出て行った。
普段と大して変わらない服に身を包み、サンダルを履いて、ウェーブの掛かった長めのカツラを被って白いヘアバンドをしてイチイバルを持った姿は、母親そっくりだった。
「ブリギッド様に化けるとは…。」
「へ~、ブリギッドさんってあんな感じだったのか。」
中央まで進み出たファバルは、そこでイチイバルを掲げると、スタスタと袖へ消えて行った。

「次は、スカサハ~。」
もはや、誰が呼ばれても驚くまいと思っていたスカサハは急いで深呼吸した。
「それじゃ、行ってくるね。」
「ええ、練習の成果を楽しみにしています。」
スカサハは、ユリアに言われた通りに帽子を目深に被ったまま中央までゆっくりと歩いて行った。
丸襟の白いブラウスにピンクの長袖ボレロとロングのAラインスカートを纏い、ローヒールのパンプスを履いて、帽子を押さえてスカサハは進んで行った。歩く度に付け毛の先で服と同色のリボンが揺れる。その姿は、さながら避暑地に来たお嬢様と行った感じだろうか。
中央まで進み出ると、スカサハはその場で軽く俯き加減に帽子を取った。練習した通り、観客や審査員そしてもちろんセリスに向って、少しはにかんだ感じでそっと微笑む。
「ヒュ~♪」
ヨハルヴァは口笛を吹いた。
そして、セリスも驚いていた。
「ユリアったら…やってくれるなぁ。」

「さぁ、これからはもっと高度な女装が拝めると思うよ。それじゃ、次は…セティ~!」
つまり、50音順と思わせる為のアーサーと呼び方にルールがあると思わせる為のレスタ-以外はセリス様の期待度の低い順ということか、と納得したセティは、優勝候補者の中で自分が一番期待されていないことを喜ぶべきかどうか悩みつつ、玉座の方へ歩いて行った。
お洒落な白のブラウスに脇に大きくスリットの入った黒のロングタイトスカートを身に纏い、黒のストッキングにエナメルのパンプスを履き、左側の髪を多めにかき上げた状態でパールの髪飾りで止め、耳元にはパールのイヤリング、指には同じくパールの指輪を嵌め、開き気味の胸元にはパールのネックレスといった具合にアクセサリーを統一して、押さえ気味ながらバッチリと化粧をして、黒に光り物の飾りが入ったハンドバックを持ったセティはきびきびした足取りで中央へ歩いて行った。
知的でそれでいて色っぽいセティの姿に、袖で見ていたフィーは息を飲んだ。
「やだ、お兄ちゃんったらわたしより美人。」
そして、あれこそ周りの人達が日々口喧しく言ってフィーに求めている公爵夫人の姿かも知れない。
「う…、やるな、セティ。」
「やるわね、セティ。」
優勝賞品に人一倍目が眩んでいる男女が2人、悔しそうにセティを見つめる中、セティは中央で各方面に一度済ました顔を向けてからにっこりと微笑み、反対側の袖へと消えて行った。

「気合い入って来たね~。さぁ、次はシャナンだよ~!」
涙目で頭を摩っているラクチェを置いて、シャナンはスタスタと歩き出した。
黒地に赤の縁取りと裾に大きな緋牡丹の絵の入ったロングのチャイナドレスに身を包み、肘まで覆う手袋を着け、真っ赤なパンプスを履いて、左右の髪を団子に結い上げてビーズのヘアコームを着けて長い髪をなびかせて、手にした扇で顔を隠しながらシャナンは滑らかに歩いて行った。
中央に出ると、シャナンは扇をずらして各方面に流し目をくれた。その後、もう一度顔を隠すと今度は完全に扇を外し、婉然と微笑む。
その美しさと色っぽさに、コープルは顔を真っ赤に染め、ヨハルヴァも息を飲んだ。
そして控え側の袖では、またしても優勝賞品に人一倍目が眩んでいる男女が2人、悔しそうに呟いた。
「シャナン…、あなどれんな。」
「くっ、手強いわね。」

「さぁ、いよいよ残りはあの2人だよ。まずは、リーフ~♪」
出番が来たリーフの手を、アルテナは握りしめた。
「リーフ、わかってますね?」
「はい、姉上。軽快に、愛らしく、ですね。」
「そうです。忘れてはなりませんよ。」
力強く頷くリーフに、アルテナはもう一度しっかりと手を握り直してからその手を放した。
ドレープをたっぷりと取った可愛い白のサマードレスに白いレースの手袋をして、踵の高いミュールを履いて、可愛い髪飾りを着けた茶色のロングヘアを揺らし、アルテナの指導通りにリーフは踊るように軽快な足取りで終始その愛くるしさを振りまきながら中央へ進み出た。そこで更に、解放軍一と言われる愛くるしさをアピールすると、また踊るような足取りで袖へと姿を消した。
「リーフはやっぱり可愛いなぁ。」
セリスは満足気な笑顔で何度も頷いた。
「リーフめ…。」
「さすがはリーフ様。あの愛くるしさは半端じゃないわ。」
アレスは悔しそうに、そしてナンナは呆れたようになりながらも、リーフの愛くるしさを再認識させられていた。
そして観客席と言われるパーティーフロアでは、そのあまりのノリの良さとあまりの可愛さにフィンが深い溜息をついていた。
「私はやはり育て方を間違えたのでしょうか。申し訳ありません、キュアン様。」

「は~い、いよいよラストだよ~。アレス~♪」
ついに呼ばれた自分の名に、アレスは優雅に玉座の方へ歩を進めた。
黒を基調として金糸銀糸の刺繍の入ったシックでレトリックなドレスに身を包み、黒いレースの手袋をしてその上から大きなエメラルドの指輪を嵌め、金髪の付け毛を後頭部でまとめあげて銀の髪飾りを差し、耳元には大きな銀細工のイヤリングを着け、ストールを掛けてパラソルを持ってアレスは中央まで歩いて行った。そこで、パラソルを外して婉然と微笑む。
「ラケシス…。」
その姿は、マスターナイトとなって戦場に凛と立って光り輝いていたラケシスの雰囲気と似ていた。
「うわぁ、アレスってば美人だね。」
セリスも感心した様子だった。
そして、リーフも歩み寄ってくるアレスの姿を眺めながら、悔しそうに呟いた。
「…綺麗ですね。」

「は~い、それでは集計結果が出るまでの間に特別賞の発表だよ。」
審査員達は、相対評価として点数を補正している。その間を利用して、セリスの独断と偏見による特別賞が授与されることとなった。
「特別賞は…。」

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特別賞授与

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