愛は流星

「後方より、アクスナイト部隊接近」
上空のファルコンから、フィーの声が響いた。
「私は、急いでセリス様に報告します。みんなが来るまで何とか持ちこたえて下さい。」
そう言い残すと、フィーは前方へ向けてファルコンを急がせた。その場に残されたのは、戦士部隊と補給部隊だった。その殆どは新兵と一般人でとても戦力にはならないような者ばかりだった。
しかし、心配は無用だった。
「スカサハ、新兵達を率いて先に行け。ラクチェ、少し戻ったところの街道口で敵をくい止めるぞ。」
シャナンは即座に指示を出し、神剣バルムンクを手に、ラクチェを伴って元来た道を引き返した。
街道口は狭く、シャナンとラクチェが並んで立ち塞がると、彼らを倒さない限りアクスナイト達が先に進むことは不可能となった。彼らは、襲いかかるアクスナイトを次々と返り討ちにしていった。
「油断するな、ラクチェ。」
「はい、シャナン様。」
二人の息の合った剣技の前に、アクスナイト部隊は総崩れとなった。しかし、全滅寸前に、敵に増援が現れた。グレートナイト部隊である。
「ラクチェ、大丈夫か?」
「はい、シャナン様がお側にいて下されば、斧部隊など恐るるに足りません。」
「ふっ、その気の強さ。そういうところは、本当にアイラにそっくりだな。」
「シャナン様・・・。」
ラクチェは、ちょっと拗ねたようにシャナンの方に視線を流した。
「ああ、すまない。これは禁句だったかな。」
シャナンは軽く笑いながら、また一騎、グレートナイトを返り討ちにした。


ラクチェは、昔からアイラに似た顔立ちをしていたが、成長するに従って瓜二つと言っても良いほどの容姿になっていった。更に、両親から剣聖オードの血を濃く受け継いだこともあってか、あるいは今や大陸一の剣士と謳われるシャナンの指導を幼い頃から受けていたためか、その剣技は美しいまでに見事なものであった。まさに、大陸一強く美しい女剣士と言われた母アイラに生き写しだった。
そのため彼女は、幼い頃からオイフェとエーディンに言われ続けたのだ。
「さすがは、アイラ様のご息女ですね。」
「まるで、アイラ姫を見ているようだわ。」
と。その剣技を称賛するときなどは特に、彼らはうれしそうにその言葉を繰り返した。
ラクチェとしても、最初は単純に喜んでいた。母のことは覚えていないが、オイフェ達から聞かされていたアイラの姿に憧れを抱いていたし、アイラのようになりたいと願っていた。だから、「アイラのようだ」という言葉は、最高のほめ言葉だと思っていた。
しかし、いつしか淋しさを感じるようになった。自分はラクチェであって、アイラの影ではない。自分自身を見て欲しい。そう思ったとき、ラクチェにとってアイラは憧れの剣士ではなく最大のライバルであり、越えるべき壁となった。髪を切り、これまで以上に剣技を磨いた。アイラ以上に強い剣士となることで、自分を認めさせようと懸命になった。
シャナンに対する想いを自覚してからは、特にアイラのことを意識せざるを得なかった。シャナンにとっては単なる思い出話でも、その口からアイラの戦いぶりが語られると嫉妬さえ感じた。想いが通じても、心のどこかで拭いされない不安を感じていた。シャナンから「アイラに似てきた」と言われたとき、その不安はピークに達した。
「シャナン様、私は母さんの身代わりなのですか?」
「そんなことはない。」
「しかし、シャナン様も私の中にアイラを見ているのでしょう。」
「お前がアイラの娘であることは事実だし、似ていることも否定は出来ない。アイラを知っている者達がお前の中にアイラの面影を見ることを止めることは出来ない。だが・・・」
「やはり、私はアイラの身代わりなのですね。」
「私はアイラの娘や自分の従妹を愛したわけではない。」
「シャナン様・・・」
「確かに、昔はアイラの忘れ形見を守ることを考えていた。お前の中にアイラを見ていた。だが、今守りたいと思っているのは、ラクチェという一人の女性だ。」
「守る、ですか?」
「そうだ。そして、共に戦いたいと思っている。この戦いも、次の戦いも。」
「ずっと・・・そう言っていただきたかった。」
ラクチェは声を詰まらせて俯いた。そんなラクチェの肩をシャナンが軽く引き寄せると、ラクチェはシャナンの胸に顔をうずめ、声を殺して泣いた。シャナンはラクチェをそっと包み込むように抱き締めた。
ラクチェはアイラの影から解き放たれた。


グレートナイトの猛攻は続く。
「シャナン様、私はもう、アイラの名前に脅えたりはしません。そんなことくらいで落ち込むようなマネはしませんよ。」
ラクチェはあっさりとグレートナイトを切り伏せると、シャナンに向けて晴れやかな笑顔を向けた。
「そうだな。今のお前は、本当に輝いているよ。」
シャナンもラクチェに笑いかけながら、グレートナイトを切り捨てた。
緑色に輝く二人の前に、グレートナイト部隊は壊滅した。やがて二人は連れだって、スカサハ達の元へ戻って行った。

-了-

あとがき(という名の言い訳)

こんなところまで読んでいただいて、どうもありがとうございます。
「愛は流星」ってタイトル、ガンダムW(特にトロワ)ファンには怒られそうですね(- -;)
でも、タイトル考えるの苦手だから、一生懸命考えたタイトルが某アルバム収録曲と同じだったからって、すぐに別のタイトルなんて思いつかないよ〜(TT)

さて、気を取り直して言い訳を続けましょう。
LUNAは、シャナン×ラクチェ絶対主義者です。このカップリングは譲れません!
でも、このカップリングのパロディって見かけないんですよ。パロディでは、ラクチェのお相手はセリスかヨハン(ヨハルヴァ)が王道のようで、シャナン×ラクチェは成立前らしきものが時々見かけられるくらいなんです。
で、とうとう自分で書いてしまいました(^^;)
元々、セリフ遊びして頭の中で遊ぶのは好きなので、セリフのやり取りの大筋は随分前からいろんなパターンが頭の中に蓄積されていたのですが、地の文が・・・。それに、きちんと整頓された形で背景を考えていたわけじゃなくて、気分次第というかその時のノリみたいなものでセリフが出来てたから、そのセリフに至る経緯を文にするのに頭を悩ませました。セリフは殆ど一気書きですが、地の文は何回書き直したことか・・・。
ともあれ、ラクチェの過去は完全なオリジナル設定です。
でも、ずっと「アイラに似てる」って言われ続けたら、やっぱり嫌じゃないのかな。特に、好きな人から他の女性に似てるって言われたらどう思うでしょう。時々、アニメやコミック等で「一番好きだった子に似てる」って口説く人がいますが、LUNAはこのセリフ嫌いなんです。だって、誰かの身代わりみたいなんだもの。
LUNAがシャナン×ラクチェでセリフ遊びするときの基本は「アイラはシャナンにとっては保護者」ってことと「ラクチェに一方的な保護は似合わない」ってことです。シャナンにとってアイラの影響力は大きいけど、ラクチェと結婚するのはラクチェ自身を愛したからだと思いたいし、ラクチェにはシャナンの後ろではなく隣に居て欲しいと思います。

もちろん、「守る」って言っても背にかばうばかりとは限りません。ゲーム中でアイラはホリンから「お前を守ることが俺の全てだ」って言われます。このセリフ、結構好きなんです。それは、ホリンの守り方は普通の「守る」と違う感じがしたからです。
でも、シャナンにはホリンのような守り方は出来ないでしょう。背負ってるものが違い過ぎて、シャナンにとって「守る」は「保護する」という意味合いになると思います。だから、ラクチェを守って欲しくなんかありません。共に歩んで行って欲しいと思います。

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