After War(シレジア&フリージ編)

フリージ女公爵となったティニーは、旧来の威圧的な統治姿勢に固執する者達と新しい国としてやり直そうとする若手(ティニーを含む)の間を必死に調整しながら、フリージを新しい国として復興させるべく奮闘した。
その結果、少しずつではあったがこれまでのピリピリした雰囲気とは違う、どこかほのぼのとした雰囲気も感じさせることのある新しい国としてフリージは復興して行った。その蔭には、グランベル皇帝がセリスになって時代が変わったのだという認識と、そして時々やってくるヴェルトマー公爵夫妻、つまりアーサーとフィーの存在があった。
戦後も、ヴェルトマーは一目置かれていた。特に旧来の考えを捨てられない者程、その意識は強かった。そこへ、ヴェルトマー公爵夫妻が予告もなくファルコンで訪問して来たのである。ファルコンの影に驚き、更にはヴェルトマー公爵が飛んでくる程の大事が生じたのかと慌てふためき、その挙げ句がシスコンと気晴らしの私的訪問であると分かった時は力が抜けてしまったのだ。
そうこうする内に、アーサーのお気楽ムードに感化されてきて、ピリピリしていた雰囲気も、ギスギスしていた人間関係も、すっかり丸くなっていったのだった。
そしてフリージは、今日もアーサー達の急来を受けていた。
「ああ、どうしましょう。もう少しで終わるのだけれど…。」
ティニーは書きかけの書類を見ながら困っていた。
一体、どう言う訳かは知らないが、アーサー達は予告もなく現れるにも関わらず、これまで何故かいつもティニーの手が空いてる時にしか来なかったのだ。
「お待たせしておけば宜しいではありませんか。」
もうすっかり慣れ切った(なめ切った?)女官の言葉に、ティニーはアーサー達を別室に通して時間を稼いでおいてくれるように頼むと、急いで書類を仕上げるべくペンを走らせた。


「ごめんなさい、お待たせしてしまって。」
ティニーが客間に入ると、アーサーの笑い声が響いていた。
「いや〜、やっとまともな親戚が見つかって嬉しいよ!」
中には、アミッドとリンダが同席していた。時間を稼ぐように言われた女官が、アミッド達に相手を頼んでいたのだ。
「とにかく、これまでに知った親戚って普通じゃなかったからなぁ。神器使いが多いから仕方ないけどさ。」
「まぁ、確かにイシュタル様達はトールハンマーの使い手だし、ヒルダはアレでしたけど、イシュトーは割と普通でしょう。」
「でもさ、あのサンダーストームは当時の俺には十分驚異的だったよ。」
そう言われてみれば、ここに居る者でサンダーストームを使える者は居ない。
「母方がそれなのに加えてさぁ、父方がまた、とんでもなくってさぁ。」
アーサーにそう言われても、アミッド達にはピンと来なかった。反応の鈍さにアーサーのテンションが下がりかけたのを見て、フィーが解説を入れた。
「アーサーのお父様って、アルヴィス皇帝の腹違いの弟だったのよ。」
それで、アミッド達は納得した。アルヴィス皇帝が伯父に、ユリウス皇子とユリア皇女が従兄姉に当たる。確かに、普通じゃない親戚である。
「だから本当に、君たちが普通の人間で嬉しいよ〜!」
「いい加減にしなさいよ。セリス様やスカサハに今のセリフ聞かれたらまずいわよ。」
聞きようによっては、ユリアを化け物扱いしてるように取れる。外部に洩れると結構やばいセリフである。
「セリス様はともかく、スカサハくらいなら…。」
「勝てるわけないでしょ、あんたじゃ流星剣喰らってあっさりあの世行きよ。」
「でも、必殺ウィンドあるし…。」
「相手が見切り持ちだって事忘れてるでしょ。お兄ちゃんならラクチェにだって勝てるけど、あんたじゃ無理よ。」
きっぱりと言い切ったフィーに、アーサーはやり込められてしまった。
「あの〜、「ラクチェ」ってあの戦乙女として有名なイザーク王妃様ですよね。フィーさんのお兄さんってそんなにお強いんですか?」
まだ、系譜を把握していないリンダがおずおずと訊いた。
「まぁね。」
「セティさんは特別だろ。」
フォルセティを装備したセティには、ラクチェと言えど攻撃が擦りもしない。
「セティ様って、ティニー様の旦那様のことですか?」
「「旦那様ぁ!?」」
アミッドの言葉に、アーサーとフィーが同時に叫んだ。
「ティニー、お前、別れたんじゃなかったのか!?」
「別居中なだけですよね、ティニー様。」
「よく、お手紙が届くし、あのクマのぬいぐるみ…。」
「「クマ!?」」
リンダの言葉にまたしても、アーサーとフィーが同時に叫んだ。
「リンダたら、何を言うつもりなの!?」
ティニーは真っ赤になってオロオロしたが、アミッドとリンダは構わず続けた。
「先日、大きなクマのぬいぐるみが届いたんですよ。」
「首から『セティ代理』って札下げてるんです。」
「やっだぁ、お兄ちゃんてば、やるじゃない(^o^)」
ティニーはますますオロオロし、アーサーは面白く無さそうにティーカップに手を伸ばした。

戻る

次へ

インデックスへ戻る