After War(ヴェルダン編)

聖戦が終わって、各国の世継ぎに当たるものたちは、それぞれその国を治めるように、セリスから割り当てが発表された。両親が共に世継ぎに当たる場合、男子は父親の国を、女子は母親の国を継ぐように定められていた。そのため、ファバルはイチイバルの継承者であるにも関わらず、ヴェルダンを継ぐように言い渡されて、妻のラナを伴って旅立つ支度を進めていた。道中ユングヴィを通るので、ユングヴィを継ぐ妹パティとその夫レスター、そしてティルナノグから呼び寄せられたエーディンも一緒にバーハラを出発し、ユングヴィでひと休みしてからヴェルダンへ抜ける段取りとなっていた。


ユングヴィ城でみんながわいわいと話している中で、思わぬどんでん返しが起きた。何と、パティがヴェルダンを継ぐと言い出したのだ。
「だって、お兄ちゃんはイチイバルの継承者でしょ。ユングヴィを継ぐべきよ。父さんの血の濃さは2人とも変わらないけど、母さんの方は違い過ぎるでしょ。」
というのがパティの言い分だった。
「それにさぁ、どうやらこの国の人たちって、お兄ちゃんが公主だと思ってるみたいなのよね。今さら、否定して旅立つ勇気と、あたし達を見捨てる度胸ある?」
「見捨てるって…?」
「お兄ちゃんの場合、ウル直系の証拠ありよね。聖戦士様々よね。でも、あたし達はどうやって認めさせる訳?」
イチイバルなら動かぬ証拠。誰も文句なんか言えやしない。いきなり乗り込んできて実権を握るのも容易いことだ。今さら、その実力を示す必要もない。
しかしパティの場合、そのイチイバルの持ち主の妹なのだから確かにウルの血を継いでいるのだろうが、何ゆえポッと現れた小娘に従わなくてはならないのだ、という心理が働く。
「だったら、お前、ヴェルダンだって同じだろ。」
「そっちは、何とかなるわ。」
ファバルにしろパティにしろ、ジャムカ王子の子供だという確かな証拠が示せる訳ではない。パティは、無法地帯と化したヴェルダンを平定することで認めさせるつもりなのだ。ジャムカの名を掲げて山賊達と戦い、人心を掴んで即位する。
「でも、一応お前だって女だろ。そんな危ないマネしてさぁ…。」
「じゃぁ、お兄ちゃん。そんな危ないマネにラナを付き合わせるの?」
ヴェルダンの場合、ファバルが継ぐのであっても状況は変わらないのである。
「私なら平気よ。レスターが付いてるもの。お兄ちゃん達とは機動力が全然違うわ。」
はっきり言って、ラナの足は遅い。しかも、戦闘力がない。一応、攻撃魔法を使うことはできるはずなのだが、魔道書を持っていないのだ。
「しかし…。」
「とにかく、ラナや母さんともよく話し合ってくれよ。また明日、話し合おう。」
平行線のまま進む会話に、とうとうレスターが区切りを付けた。


一晩明けても、ファバルの決断は付かなかった。
「仕方ないわね。これは言いたくなかったのだけど…。」
煮え切らないファバルに、ついにパティは奥の手を出した。
「解放戦争ってお金掛かるのよ。解放した村の財政を支えて、武器を修理し、尚かつ戦い続けるだけの軍資金が、お兄ちゃん達に用意出来るのかしら?」
略奪は出来ない。村の貯えもあてにならない。そんな中で、一発1000Gの武器と金喰い虫の彼女を抱えて戦うだけの甲斐性は、ファバルにはないだろう。
「お前達になら、出来るってのか?」
「もちろん、出来るわよ。ね、レスター♪」
自信たっぷりに言い放ったパティと力強く頷いたレスターの前に、ファバルとラナはユングヴィに残ることを決意した。
そして、その言葉通り、パティとレスターは見事な解放劇を演じ切ったのである。
何と、軍資金の出所は山賊達自身であった。
山賊達は戦う度に有り金を巻き上げられていったのだ。鍛え上げられた勇者の弓と魔法剣でハートを飛ばしながら襲いくる追い剥ぎカップルの前に、山賊達は手も足も出ず、各地で巻き上げた金は全て失い、逃げようとしても馬で追撃されては逃げ切れず、首領が状況を飲み込めた時には壊滅寸前となっていた。
パティ達は、山賊から巻き上げた金から必要経費+α程度を差し引いて、残りは村に配って歩いた。しかも、単に金を置いて行くのではなく、使い道に付いてアドバイスまで残して行くところが更に難い演出である。村人達はパティを指導者として認め、2人の財政手腕に国の未来を預けた。


山賊のアジトと化していたジェノアとマーファを解放し、パティはマーファを新ヴェルダン城と改めて本城とした。これからは対外的にも森の奥に隠ってしまうと不便だからだ。そして、ヴェルダン城もきちんと手入れをして、別荘的な位置付けとし、古城ツアーを組んで観光資源とした。
この経済観念の発達した夫婦に支えられ、ヴェルダンは税金が安くて活気ある国として復興して行ったと言う。そして…。
「お兄ちゃん、さっさと貸付金を返済してよ!」
「悪い、もうちょっと待ってくれ。」
「だ〜め!どうしても返せないって言うなら、イチイバルをカタにしちゃうからね。」
今日も、パティは借金の取り立てに燃えていた。
「やっぱり、俺たちがヴェルダンに行って正解だったな。」
「兄さん!落ち着いてないで、パティに何とか言って!!」
「そうよ。母さんを助けると思って、何とかして!」
「…何とかなるかどうか、調べてやるよ。」
苦笑しながらそう言ったレスターの手元には、ラナから取り上げたユングヴィ城の家計簿があった。
その後、ラナとエーディンは、レスターから無駄遣いについて長々とお説教を受けることとなったが、その甲斐あってか、イチイバルを取り上げられる危機だけは回避できた。

-End-

あとがき

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