Nous felicitrons qu'elle te naitra

アグストリアを平定してアレスとナンナが結婚式を挙げてから、もうじき2年になろうとしていた。
しかし、共に戦った仲間達の元には次々と子供が誕生しているのに、何故かナンナはこれまで身ごもることがなかった。
アレスとナンナの仲の良さ、と言うよりアレスのナンナへの熱愛ぶりは内外に知れ渡っている。それなのに、未だに世継ぎが誕生しないとなると外野はいろいろ噂を立てはじめる。周囲の者達はそれが彼らの耳に入らないようにしていたが、ついにナンナの耳に入る所なってしまった。そう、王妃様は子供が出来ない体質なのだ、と。
「どうして、私の所為になるのよ!!」
最初に耳にした時、ナンナは憤慨した。そりゃ、アレスに欠陥があるとは思わないけど、アレスが悪いとする噂は全然耳に入ってこない。でも、一方的に自分の所為にされるのは我慢ならないし、自分だって健康そのものだ。
「やっぱり、アレスが神器の使い手だからじゃないの?」
一緒にお茶を飲んでいたリーンは、穏やかな顔で返事をした。「神器の使い手が子孫を残せない体質のはずがない」と思われているのだろう、と。
「無責任に騒ぐ輩の事なんて放っておきなさいよ。こういうのは自然の成り行きなんだから。」
かく言うリーンは現在デルムッドの長子を出産間近である。
「でも、まぁ、不思議ではあるわね。あれだけの熱愛ぶりなら、とっくに子供の4〜5人も居そうなものなのに。」
「私達、まだ結婚2年目なんだけど…。」
双子や三つ子を相次いで産めとでもいうのか、とナンナは上目遣いにリーンを睨んだ。
「人数は冗談だけど、外野が騒ぐのも無理ないわね。」
要は、誰もが世継ぎ誕生を待ちわびているのである。

「ねぇ、私って、どこか変?」
外野の声が煩くなって不安になって来たナンナは、思い切ってアレスに聞いてみることにした。
「ああ、変だな。」
アレスは平然と答えた。
「や、やっぱり、変なの〜!?」
「ああ。ふさぎ込んでるように見えたかと思えば、急に活発に動き回って…。」
どうみても、最近のナンナは変だった。あまりに奇行が続くようだったら、医者を呼ぶと金が掛かるから、近々姉の見舞いにやって来るコープルにでも相談しようかと思っていたくらいだ。
「そういうことじゃなくて、私の身体のことよ。」
「具合でも悪いのか?」
だったら、さっさと医者呼ぶか、とアレスは腰を上げかけた。
「だから、そういうことじゃなくて、アレスから見てどうなのかなって。」
「元気そうに見える。行動は変だけど…。」
血色もいいし、動きに違和感はないし。アレスの目には、ナンナは身体的には健康そのものに見えた。
「それじゃ、どうして子供出来ないのかしら?」
ナンナがボソッと呟くと、アレスが目を丸くした。
「欲しかったのか、お前?」
今度はナンナが驚く番だ。
「えっ、アレスは欲しくなかったの!?」
「そりゃ立場上いつかは必要だろうし出来ちまったら仕方ないけど、当分は要らないぞ。」
どういうことよ、とばかりに詰め寄るナンナに、アレスは平然と言ってのけた。
「だって、子供が居たらナンナを独り占め出来なくなるじゃないか。」
アレスの言葉に、「当分の間は、この大きな子供の世話だけで手一杯みたいね」とナンナは苦笑したのだった。

そんなナンナが自分の妊娠を知ったのは結婚2周年記念のパーティーの夜だった。
人や酒に酔ったのかと思いきや、実はそういうことだったのである。
「今夜発覚するなんて、お祝いのつもりなのかも知れないわね。」
「誰からの?」
「えぇっと、この子からの、とか…。」
「当分要らない」と言われた矢先の出来事であるため、ナンナはアレスの顔色を探るように言った。
「やっぱり、まだ欲しくなかった?」
その割には言動と行動に矛盾があるが、今回のことをアレスがどう思ってるのかナンナは不安を覚えずにはいられなかった。
「ん〜、まぁ、俺とお前の子供だしな。多少は譲歩するか。」
アレスは軽く頭の横に手を当てて仕方無さそうに呟いてから、ナンナのお腹に向ってよく言い聞かせるようにした。
「お前になら特別にナンナを貸してやる。でも、ナンナは俺のだからな。それだけは忘れるなよ。」
それを受けて、ナンナも自分のお腹に言い聞かせるようにした。
「アレスはこんなこと言ってるけど、心配しなくていいわよ。何があっても私が守ってあげる。だから、安心して私達の元へ生まれていらっしゃい。」
そんなナンナに母としての誇らしげな表情を見て、アレスはナンナの肩をそっと抱き寄せたのだった。

-Fin-

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