曙光

「稽古と実戦は違うんだ。」
ナンナは、そんな言葉を昔から何度も聞かされていた。
「お前に人殺しは似合わない。」
それは、自分と距離を置こうとするための言葉なのだと思っていた。傭兵として、金の為に人を殺して来たその身を卑下する言葉なのだと。
「俺の後ろで大人しくしていろ。」
確かに彼にはそこを安全地帯とするだけの実力があるかも知れないが、ナンナは彼の後ろでただ震えているだけの存在では居たくなかった。だからその日、死角から彼に向って近づこうとしている敵を見つけた時、駆け出して剣を振るった。自分だって剣が使えることを、一緒に戦うことが出来ることを知って欲しかった。
だが、結果は彼の言う通りだった。
初めて人を切った感覚は最悪だった。相手の肉を切り骨を断つ手応えが、その身に克明に伝わって来た。飛んで来た返り血は生暖かく気持ち悪かった。間近で放たれた絶叫は、いつまでも耳に残った。
もちろん、間近で人が斬られるのを見るのは初めてではない。ナンナをかばって倒れたり、間一髪で助けられた結果斬られた敵が倒れかかって来たり、そんなことが皆無だった訳ではなかった。
しかし、自分の手でそれを為した場合の感覚は、それとは比べ物にならなかった。
セリス達と合流する前も、剣を佩いて戦場に身を置いていながら結局一度も人を斬ったことはなかったのだ。いつも誰かが守ってくれて、ナンナはその人の傷を癒して来た。
その後、ナンナは自分がどうしたのか覚えていない。

気がついた時にはベッドの中に居て、傍らには心配そうにナンナの顔を覗き込むパティの姿があった。
「私、どうしたのかしら?」
「よくわからないけど、戦場で倒れちゃったみたいね。」
パティの言葉に、ナンナは自分が倒れた時のことを思い出そうとしたが、うまく思い出せなかった。
「ここんとこ忙しかったしさ、疲れてたんじゃないかな。ほら、ナンナって本職じゃないのに回復魔法いっぱい使ってるでしょ。」
「そうなのかしら?」
何だかスッキリしないが、言われてみればそう思えなくもない。
しかし、パティがホッとした直後、起き上ったナンナは前髪をかき上げようとして持ち上げた手を止めた。
「これ…。」
利き手の爪の間に血がこびり付いているのを見て、ナンナは自分が人を斬ったことを思い出した。
「あぁ〜〜〜!!」
ナンナは耳を押さえて悲鳴を上げた。
間もなく、悲鳴を聞き付けたアレスが部屋へ飛び込んで来た。間髪入れずにリーフ、フィンと続き、後から後から仲間達が駆けつける。
「おいっ、何があったんだ!?」
アレスはナンナの身体の震えを押さえるように抱き締めながら、傍らに居たパティに問うた。
「わからない。起きて少しの間は何ともなかったのよ。」
どうして急にナンナが悲鳴を上げたのか、自分が聞きたいくらいだとばかりにパティは困惑した顔で首を振った。
「一体、何を怯えている?」
アレスはナンナの手をずらして、耳元へ優しく声をかけた。
「あぁ〜〜!アレス。」
「どうした?」
「私、この手で人を・・・。」
それ以上言わなくても、その場に居た者は皆事情を察した。剣を手にした者ならいつかは通る道だ。しかし、そのきっかけや受け止め方は人それぞれで、あっさり割り切れる者も居れば、上手く乗り切れる者も居る。その一方で、極限状態の中で身を守る為に初めて敵を斬ったのであってさえ、そのショックでしばらく寝込む者も居る。
アレスは再び震え始めたナンナを引き寄せると、その身の自由を奪うようにきつく抱き締めた。
「仕方なかったんだよね?悪い夢だって思えば…。」
「やめろ、パティ。」
ナンナを慰めようとしたパティをレスターが止めた。
「俺たちには解らないよ、きっと。」
その手で人を殺める感覚は、直接武器を振るっていない者には解らない。
相手の命を奪った瞬間に返って来る手応えは、想像の域を遙かに超えているのかも知れない。
「あ、あたしだって人を斬ったことは…。そりゃ、あまり良い気分じゃなかったけど…。」
「あんたのは、掠り傷を負わせただけでしょ?」
いつの間にか、ラクチェが近くまで来ていた。
「よく聞きなさいよ、ナンナ。わたしは気休めなんて言わないから。」
その言葉に、アレスはナンナの頭を自分に押し付けていた方の腕を少し緩めた。
「戦場で剣を手にする以上、そんなことは当たり前のことよ。これからも今までのように戦場へ出るなら、覚悟を決めなさい。」
「酷いこと言わないで!」
すかさずパティがラクチェに食って掛かったが、即座にレスターに取り押さえられる。そして他の者は、何も言わずにラクチェの次の言葉を待っていた。
「これからどうするかは、自分で決めるのよ。二度と人を斬りたくないなら、剣を捨てればいい。誰もあなたに剣を振るうことを強制したりしない。でも、ここに居ることを自分で選んだ以上、あなたなりの戦い方を見せてもらうわ。」
決して声を荒げたりせずに淡々と告げるラクチェの肩をシャナンがそっと叩いた。それを受けて、ラクチェはシャナンと一緒に部屋を出て行き、他の者も殆どが2人に続いた。
傷ついたような顔をするナンナを見てパティはラクチェの背中を睨み付けたが、アレスは別の思いを込めた視線をラクチェに送った。
「俺には言えないな。」
最初から人を斬る為に剣を学び、金と引き換えに多くの人間を殺めて来たアレスには、彼女達の気持ちは解らない。今でこそ別の目的の為に剣を振るっているが、敵を斬る行為には既に慣れ切ってしまっている。例えそれが正論であっても、今のナンナに対して、ラクチェの様に厳しい言葉を叩き付けることは出来ない。
ラクチェが何を思い、どうやってこれまで剣を振るい続けて来たのかは知らないが、『殺戮の女神』『死神兄妹』などと呼ばれて敵味方を問わず恐れられる彼女にも、それなりの葛藤があったのだろう。その言葉には、淡々とした口調とは似つかわしくない程の重みが感じられた。
「今すぐにとは言わないが、あいつの言ったことをよく考えてみろ。よく考えて、納得のいく結論を導き出せ。」
アレスは腕の中で涙ぐんでいるナンナの耳に静かに話しかけた。
「だが、今はとにかく落ち着くことが先決だな。とりあえず…。」
「御飯食べに行こう!!」
すぐ横でリーフがファイティングポーズをして叫んだ。
「ちゃんと食べて、ゆっくり眠るんだ!」
「リーフ様…?」
「お腹が空いてると碌なこと考えなくなっちゃうからね!」
それはナンナの気持ちを少しでも楽にしようと、リーフなりに考えたことなのだろう。上手い慰め方の一つも思い付けないアレスは、それに便乗することにした。他のことに気を取られれば、少しは冷静になれるかも知れない。
「まったく、お前って奴はどんな時でも食うことは忘れないんだな。」
呆れたように言った後、アレスはリーフに唇の動きだけで「おかげで助かったぜ」と伝えた。

それから数日が経った。
その間、ナンナは一度も剣を手にすることが出来なかった。
アレスもリーフもナンナの前では剣の稽古を行わず、出来るだけナンナの近くに居るようにしていた。必然的に2人が顔を合わせることも多くなるため些細な諍いも起きたが、それを止めるナンナを見て2人はひと安心するのだった。
「はぁ〜。何とかならないのかなぁ、フィン?」
「私にも、どうしていいのか…。」
フィンはひとまずリーフの部屋を出てナンナと共に部屋を使うようにしたが、夜中に何度もうなされて跳ね起きるナンナに対してどうすることも出来なかった。
「ここにいる誰にも、ナンナの痛みを知ることは出来ないのかも知れないな。」
アレスはボソッと呟いた。
彼女は騎士としての教育を受けていない。駆け出しの騎士でさえ酷いショックを受けることがあるのに、あの優しい少女に簡単に乗り越えられるはずがない。
「俺は生きるために必死だったし、あの頃は迷いなんてなかった。」
「私も必死でしたよ。生き延びることが義務だと信じてましたし、今だって、誰かの犠牲の上に成り立つ理想ならその犠牲を決して無駄にしないだけのことをするのが私の責任だと思っています。」
誰かに代わってもらえるようなことではない。レンスターを取り戻すために自分達が倒した敵と、そしてそのために倒れた仲間の命に対する代償は、善政をしいてレンスターを平和で豊かな国にすることで支払いたい。レンスターをそんな国に建て直すのが自分の夢だと言うリーフに、フィンもアルテナも思いを同じくする者として暖かな眼差しを向けた。
「そう、俺達は自分の手で事を為す意味や理由があった。今だって、それはある。だが、ナンナは普通の少女として守られていても構わないんだ。」
騎士の娘だとてノディオンの王妹の娘だとて、自らが剣を振るわなくてはいけない理由にはならない。成長してからは父にならってリーフを主君の様に扱っているが、正式にレンスターの騎士となった訳ではない彼女には、戦場へ赴く義務はない。
「辛いわね。こんな時は、立場の違いを嫌という程思い知らされるわ。」
「まったくだ。ナンナがあんなに苦しんでいるのに、俺は何を言っていいのかわからない。」
傭兵として生きて来た自分に何が言えるだろう。何を言っても、慰めにも気休めにもならない。下手な慰めは、反って彼女を傷つけるだけだ。
辛そうに呟くアレスに、この時ばかりはリーフも何も言わなかった。

休息の時は長くは続かなかった。
敵襲の知らせを受けて、セリスは直ちに各人の配置を指示した。それはいつのも布陣パターンで、ナンナはアレスと共に最前線へ送られるようになっていた。
「セリス様。今のナンナに戦場へ行けと言うのはあんまりです!」
「事情はわかってるんだけど、ナンナの支援効果は無視出来ないんだよ。」
ナンナ本人が「戦えない」と言ってくれれば、セリスも今回の作戦から外すつもりだった。しかし彼女はまだ迷っており、敵襲の知らせに仲間の元へ駆けつけた。戦う意思があるものと判断出来る以上、戦略的にはナンナを外すことは出来なかった。
「行くぞ、ナンナ。」
アレスは、セリスとリーフを見つめているナンナを促した。
「アレス殿!」
「敵の姿を見る必要はない。怪我人を癒し、味方を支援することだけ考えていろ。」
ナンナが近くに居てくれるだけで、誰もが勇気づけられる。今は、その存在こそがナンナに求められているものだった。
「一緒に、来られるな?」
「行くわ。」
ナンナは杖を握り締めてアレスについて行った。すると、その後を小柄な影が急いで追いかけて来た。
「一つだけ忠告よ。迷いがあるうちは絶対に戦場で剣に手を掛けないこと。さもなくば、自分だけではなくて周りの人にまで危害が及ぶことになるわ。」
ラクチェの忠告にしっかり頷くと、ナンナはアレスを追って戦場へ馬を走らせた。
その日、アレス達の戦い方は普段と違っていた。
普段は自然に馬の上から剣を振り下ろして袈裟懸けに切り捨てるところを、相手が絶叫を放たぬように水平に剣を振るった。むろんリーフもそれに倣い、フィンやアルテナも似たような戦い方を心掛けた。
しかし、普段と違う戦い方は無駄な動きを余儀なくする。振り下ろせば済む剣をわざわざ敵の首の高さまで下げてから横に薙いだり、いちいち狙いを定めて槍を繰り出したりしている分、攻撃に掛かる時間は僅かだが増加していた。
ジリジリと下がりつつある防衛ラインに、ナンナは自分も参戦した方がいいのだろうかと考え始めたが、身体が上手く動かなかった。
そんなナンナの目に、敵の姿が入った。ナンナに見えないように楯となっていたアレス達だったが、完全には目隠し出来なかったのだ。敵はこっそりとラインの脇へ回り込むと、アルテナに向かって弓を引き絞った。
「アルテナ様!」
ナンナは警告を発すると、剣を抜いて飛び出した。同時にアルテナが急上昇する。しかし剣を振り下ろす手前で、ナンナの身体は硬直した。あの時の感覚が思い出された。
「ナンナ!」
目の前で動きを止めたナンナに敵は驚きながらも後退し、今度はナンナに向かって弓を構えた。慌てたアレスは、傍らの敵に構うことなく馬首を返した。間一髪、アレスがナンナを抱えて馬から転げ落ちると、矢はアレスのマントを掠めて飛び去って行った。
ナンナを庇って落ちたアレスは肩を強く打って『ミストルティン』を取り落した。すぐに第二射が飛んで来そうなのに剣が握れない。アレスは、ナンナを自分の後ろへ回すようにして、矢の飛んでくる方向を見据えた。
だが、第二射が飛んでくることは無かった。
「ふ〜。マスターナイトになってて良かったぁ。」
「悔しいが礼ぐらいは言っておくか。サンキュー、リーフ。」
2人が振り返ると、『銀の弓』を再び『銀の剣』に持ち替えながらリーフが防衛ラインを移動させていた。
「アレス殿の手当てを。」
「はい!」
リーフの後ろで、ナンナは急いでアレスに回復魔法をかけた。

敵を撃退して戻って来ると間もなく、ラクチェがナンナの前に現れた。
「これは、わたしが預かるわよ。」
そう言うなり、ラクチェはナンナが持っている剣を全部取り上げてしまった。
「返して!」
「ダメよ。迷いを抱えたまま剣を抜くような人に、持たせてなんておけないわ。」
ラクチェの忠告を忘れてナンナが剣を抜いた結果、もう少しでナンナかアレスが射抜かれるところだったのだ。運よくアレスが最初の矢を避けられ、リーフが敵を射抜いたから全員ピンピンしているが、一歩間違えば彼等の命は無く戦線は総崩れで大変なことになるところだった。
「でも、その剣はお母様の形見なの。」
「形見なら杖があるでしょ。それに、大切なものなら尚更今のあなたには持たせておけない。」
言い争う2人にアレスとシャナンが駆けつけて来た。
双方の言い分を聞いたアレスは、ラクチェに向って言った。
「悪いな。しばらく預かっておいてくれ。」
「どうして!?何でアレスまでそんなこと言うのよ!」
ナンナは信じられないといった顔で、駆け去って行った。
「いいのか、追いかけなくて?」
「追いかけて、何を言えばいいんだ?」
掛けるべき言葉が見つかるようなら、とっくにナンナの傷を癒せていたかも知れない。
「正直言って、そいつのしていることが正しいのかはわからないんだけどな。」
「それでもナンナよりラクチェの肩を持ったのか?」
「多分、今のナンナのことを一番わかっているのはラクチェだと思うから。」
騎士でも無く、王族としての責任を課せられた訳でも無く、それでも自ら剣を振るい続ける少女。
「お前は、何のために剣を振るっているんだ?」
突然アレスに問われたラクチェは、真正面からアレスを見据えてハッキリと答えた。
「自分自身の為よ。」

幾度かの戦闘を行い、解放軍はグランベルへと近付いて行った。
ラクチェに剣を取り上げられたナンナは、杖だけを抱えてアレス達の後ろでただうろうろしているだけだった。ずっと腰に佩いて来た『祈りの剣』がないことが妙に寂しかったが、何度頼んでもラクチェは剣を返してはくれなかった。他の人に言っても、ラクチェの方が正しいのだと言われてしまい、とにかく支援と回復に専念するよう説得されるだけだった。
グランベルに近付くにつれて、敵の攻撃も激しさを増していった。戦闘を重ねるごとに自分達の力も増していったが、深手を負うことや乱戦になることも多くなった。
そんな中で、ナンナはいつでもアレス達に守られて来た。戦略上、前線に送られることが多いにも関わらず、ナンナは敵の攻撃にさらされることはなかった。
だが、そういつまでも敵は甘くはなかった。ついにアレス達の受け持ち場所でも乱戦となり、敵がナンナの目の前に入り込んで来た。
「ナンナ!」
アレスは支えきれなかった不甲斐無さと、馬の身動きが取れない悔しさを胸に叫んだ。敵は今まさにナンナに向かって斧を振り下ろそうとしている。アレスは、身体を捻ると『ミストルティン』を投げ付けた。
武器を投げてしまったアレスに敵が群がった。アレスは急いで鞍に付けてあった『鋼の剣』を手にしたが、不自然な体勢でとっさに抜いた剣では攻撃の勢いを殺し切れず、勢いに押されて落馬した。
「アレス!」
ナンナは敵の背から『ミストルティン』を抜き取った。しかし、アレスの元まで行くには障害が立ち塞がっていた。
「ラクチェ!剣を返して!!」
ナンナは近くで戦っているであろうラクチェの姿を探し求めた。こうしている間にも、アレスがどうなっているのか不安が募る。
ラクチェは敵と切り結びながら、ナンナの方へ近付いて来た。
「お願い、剣を返して!」
「どうして?」
ラクチェは群がる敵を無駄のない動きで斬ると、ナンナに向って問いかけた。
「あの人を助けたいの!大切な人を守りたい。例えこの身が血にまみれても!!」
ラクチェはナンナに向って『祈りの剣』を放り投げた。いつでもナンナに渡せるように、ラクチェはこれをずっと持ち歩いていたのだ。むろん、手入れは充分にしてある。ナンナはそれを抜き放ち、反対の手で『ミストルティン』を抱えると、アレスに向って道を切り開いた。
「アレス!」
「来るな、ナンナ!」
『ミストルティン』を届けようとして進んで来るナンナに、アレスは警告した。しかし、アレスの想像を超えてナンナは敵を次々と斬り倒してアレスの元まで駆けつけた。
「お前…。」
「私は、大切な人を守りたい。」
思い出した、剣を初めて手にした時の気持ちを。何の為に必死に練習したのかを。
自分は、大切な人を守りたかったのだ。
リーフを、父を、仲間を。
そのためにも自分を。
そして今はアレスを。
「わかった。だが無理はするな。」
「うん。」
ナンナから『ミストルティン』を受け取ると、アレスはナンナを庇うように剣を構え直した。
「このまま他の奴らと合流するぞ。お前は前進することだけ考えろ。」
「わかったわ。」
ナンナは襲い掛かって来た目の前の敵だけを倒して先程来た道を引き返した。
乱戦の中、仲間達が集結して来るのを見て、セリスは陣形の立て直しを計っていた。合流して来るアレス達を見つけると、セリスは一頭の馬を引いて来る。
「アレス、ひとまずこの馬を使って。ナンナを一緒に乗せたままでもイケるよね。」
「ああ、大丈夫だ。」
愛馬を呼び戻している時間は無い。すぐにも前線へ復帰しなくては。
「しっかり掴まっていろ。どんなことがあってもお前は俺が守る。お前は、俺を守れ。」
「えっ?」
「お前が居るからこそ、俺は今の俺で居られる。だから俺の傍に居ろ。決して、一人で突っ走るな。」
ナンナと同様に、今のアレスは自分が守りたいと思うものを守る為に剣を振るっている。ナンナとの違いは、守りたいものが人に限られないということだ。国、想い、夢、それらを守る為にもナンナの存在は不可欠だった。彼女を失ったら、アレスの心はまた傭兵に逆戻りだ。
「離れない。私はあなたを守り続けるわ。」
ナンナはアレスの上着を握り締め、その胸に身を寄せる。そんなナンナをしっかりと抱き支えると、アレスは前線に向かって馬を飛ばしたのだった。

-了-

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